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山形地方裁判所 昭和43年(ワ)269号 判決

原告 株式会社三春屋商店

右代表者代表取締役 坂野二三郎

被告 吉田庄一

右訴訟代理人弁護士 小見山繁

主文

原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告において

(一)  被告は原告に対し、金五〇万円及びこれに対し、昭和二八年七月一日から同年九月一五日まで年一割八分、同月一六日から支払済に至るまで年三割六分、の各割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(三)  担保を条件とする仮執行宣言。

二、被告において(陳述したものとみなされた答弁書の記載による)

(一)  本案前の裁判

本件を東京地方裁判所に移送する。旨の決定

(二)  本案に対し

主文同旨の判決

第二、当事者の事実上の主張≪省略≫

理由

第一、管轄裁判所について

本件の如く、準消費貸借契約上の債務及び不当利得返還債務はいずれも、民法四八四条により、所謂持参債務であるところ、記録によると原告の住所が山形市に所在することが明白である。従って当裁判所は、本件につき民事訴訟法五条による、右債務の義務履行地として管轄がある。その他、本件を東京地方裁判所に移送すべき、必要性の存在は認められない。

第二、本案について

一、第一次的請求につき

(一)  請求原因事実(一)1、2及び抗弁事実はすべて当事者間に争いがない。

(二)  右認定の事実によると、原告の被告に対する右準消費貸借契約上の債権は、時効により昭和三八年九月一五日消滅したと言うべきである。

二、第二次的請求につき

(一)  或債務が消滅時効により消滅した場合、債務者が債務を免れたことによって得る利益が、法律上の所謂、不当利得に該当するか否かは問題があり、その帰趨は結局、消滅時効と、不当利得の、各制度の目的等を比較考量した上、これを決することになるであろう。しかして、消滅時効における効果の本旨は、既往に遡り、その債務を負担しなかったものとして債務者の利得保有を法律上容認することにあるから、実質的に考察すると、本来免るべき債務、即ち、免脱利得は存在しないことに帰着し、消滅の結果、債権者に損失があっても、それは不当利得の構成要件を充足しないものと解するのが相当である。これに反し不当利得の成立を肯定するときは、民法において、基本的、原則的、拘束力をもつものとして、その総則に規定された、消滅時効の、右の如き本質を覆滅し、ひいては、同法全体の趣旨、体系に悖る結果を招来することにもなる。

以上の如くであり、消滅時効にかかった債務は、不当利得に該当しない。

(二)  従って、原告の、不当利得の主張は、被告の、この点に対する答弁の有無にかかわりなく、それ自体失当である。

第三、以上判断したとおり、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(判事 伊藤俊光)

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